寺地はるなさんの小説『いつか月夜』は、読者に深い感動を与える作品です。
自分は会社に向いていないと、迷いを抱えながら生きる主人公が確かな一歩を踏み出していく姿を描いた一作
あらすじ
この物語は、主人公の實成が父を亡くした後に抱える不安や孤独を描き、彼が「モヤヤン」と呼ぶ得体のしれない不安に取り憑かれ、特に夜にその不安から逃れるためにひたすら夜道を歩くところから始まります。物語の中で、彼は会社の同僚である塩田さんとその娘ではない女性との出会いをきっかけに、深夜の散歩仲間が増えていく様子が描かれています。元カノやマンションの管理人など、各キャラクターはそれぞれの問題を抱えながらも、譲れないもののために歩き続けます。
テーマ
この小説のテーマには、不安や孤独、そして人間関係の複雑さが含まれています。特に、夜という時間帯が象徴的に使われており、静寂と不安が交錯する中で、登場人物たちが自分自身と向き合う姿が描かれています。また、「いつも月夜」ということわざが作中に登場し、理想的な生活への憧れや満足感についても触れられています。
心に残しておきたい一文
私の読書記録として心に残しておきたい一文、心動かされた一文もご紹介したいと思います。
誰かに、他の誰かみたいに生きればいいのに、なんて、ひどい言いかたよ。あなたもわたしも、他人を変えることはできない。
彼女には、できるだけ笑っていてほしい。でも無理をして笑うぐらいなら、泣いてくれるほうがいい。いつも笑っていてほしい、なんていうのは、ただのこちらの願望の押しつけだから。
「誰それの幸せのために行動する」と「誰それが幸せになったら、自分は嬉しい」は、そうだね、混ぜるな危険ってやつかな。危険だけどたまに混ざっちゃうから怖いんだよね。
みんな、すごい説明してほしがる。わたしを理解しようとする。でも頼んでないし。理解してくれとも寄り添ってくれとも言うてないし。なにがあったんだろうね、って、わざとらしい。心配するふりして推理ゲーム楽しむの、趣味悪い。
特定の好きな人がいるわけでもないのに漠然と「彼女ほしい」っていうのは、承認されたい、っていうのと同義や。
わたしなんか、もう何者にもなれないもんね。でもね、何者かにならねばならないというプレッシャーもない。ピアニストになれるわけじゃなし、って母は言ってたけど、じゃあ今のわたしは自分の楽しみのためだけにピアノを習える。それって、意外と悪くないよね。可能性が少ないって、もう何者にもならなくていいって、自由だね。
いつも月夜なんてありえないけど、月夜じゃなくても歩けるんだよ。わたしもあなたも。他の人たちも、みんな。
感想
「目的もなく夜を歩く、不安から逃れるために。そのうち仲間が増えてくる」
このプロセスが心地よく、多くの読者がこの物語に共感を示しています。
特に夜の散歩という行為が持つ癒しや解放感について触れられることが多いです。
物語の展開は地味であるものの、読み進めるうちに複雑な感情が胸に広がります。
特に、主人公が確固たる自分を持たずにいたところから、他者との交流を通じて意志を貫けるようになっていく様子がまぶしくもありました。このような成長の過程は、多くの読者に共感を呼び起こし、出会いを大切にしたくなる気持ちにさせてくれます。
登場人物たちの関係性についても高く評価されています。
彼らは深い関係ではないものの、お互いに支え合う姿勢が描かれており、「つかず離れず、無理強いしない会話と距離感」が良いとする意見もあります。このような関係性が、読者に温かさや安心感を与えているようです。
さらに、作品全体を通じて「善く生きる」というテーマが強調されており、登場人物たちがそれぞれの問題に向き合う姿勢が描かれています。「名前とは、この世界における対象の存在を定義づけるものだ」といった言葉もあり、名前や存在について考えさせられる内容になっています。
この作品は、心温まるストーリーと深いメッセージを持つ作品であり、多くの読者に愛される理由がここにあります。
月明かりの下で織り成される物語が、あなたの日常に新たな視点をもたらしてくれることでしょう
ぜひ手に取って、その魅力を体験してみてください。
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